【裁判員考】制度施行1年(下)最終評議〜判決 重い経験、共有が大切(産経新聞)
「いったん整理してみましょう」「少し論点がずれ始めたかもしれませんね」
裁判員の議論を静かに見守りつつ、裁判官は要所でアドバイスする。こうした言葉で、評議室は真剣ながらも穏やかな雰囲気に包まれる。4日目ともなると、裁判員同士は打ち解け、積極的に意見を出し合った。
東京地裁で行われたある殺人事件での最終評議の様子だ。
「自分の意見は十分に伝えた。思っていたよりも話しやすい雰囲気を作ってもらえたと思う」。このとき裁判員を務めた30代の男性会社員はこう話した。
≪裁判官の誘導も≫
ただ、裁判官のアドバイスを全く逆に感じている裁判員経験者もいる。静岡地裁浜松支部で殺人事件の裁判員を務めた男性は「見えない線路が引かれているようで、そこから脱線できない感じがした」と判決後の会見で指摘した。裁判官による結論の誘導をうかがわせる反応だ。
「裁判官はやはり、世間の末端のことはご存じないという感じはした。いろいろな仕事をしている人の意見を判決に反映することは必要だ」。こう話すのは大阪地裁で2月、強盗傷害事件の裁判員を務めた大阪市の塗装工事会社経営、原田弘二郎さん(63)。
とび職を失業中だったという31歳の被告に対し、「世間は不況だから仕事がないと思うだろうが、職人の高齢化が進み、若い人をほしがっている実情がある。仕事を探してもないという被告はおかしいと気付いた」と話す。
あるベテラン裁判官は「裁判員は一生に一度なるかならないかという制度。その経験を公にしてくれることで制度はもっとよくなる」と感じている。
東京地裁で裁判員を務めた主婦(55)は「参加前は事件や裁判は関係ないと思っていた。でも、今は新聞やニュース番組で事件の報道をなるべく見るようにしている」という。
裁判員経験者の男性会社員(28)も「いろいろな犯罪が社会の中にあることを再認識した。人ごとではない」と考えている。
≪社会への意識高まる≫
制度導入に携わった四宮啓(さとる)・国学院大法科大学院教授は制度を「刑事裁判への理解だけでなく国民が社会との関係を考える、そして社会へのメッセージを発する場」と位置づけており、これらの感想を「自分たちが住む社会への意識の高まりを表している」と評価する。
それだけに、裁判員経験者が感想を率直に語る場が重要となるが、ネックとなるのが「守秘義務」。違反すれば刑事罰が科される可能性がある。裁判員経験者の女性会社員(35)は「必要な義務だが、判決が公表されているのだから、緩やかにしてもいいのでは」と指摘する。
「結論は正しかったのか」。東京地裁の強盗傷害事件で裁判員を務めた女性会社員(42)は、今でも事件や裁判の報道を目の当たりにする度、執行猶予を付けた判決について自問自答する。
ただ、「正解はないのかも」とも思う。そんな思いを巡らせていると、眠りにつけず、いつの間にか外が明るくなっていることがある。だが、経験者にしか分からない悩みと考え、周囲に相談はしない。
被告や被害者らの人生を決めてしまう極度の緊張感。制度開始前から、裁判員経験者への精神的ケアの重要性が指摘されてきた。
最高裁は電話相談窓口「裁判員メンタルヘルスサポート窓口」を24時間年中無休で設置しているが、今年3月末まで寄せられた相談は23件。精神的な部分にかかわる相談が13件、肉体的不調を訴える相談が10件で、看護師や臨床心理士らが相談を受けている。3月末までの全国の裁判員経験者計約3600人を考えれば、利用はほとんどない。
四宮教授は安心して参加できる制度整備に向け、「共有した経験を言い合えることが重要。裁判官と裁判員がグループで専門家のカウンセリングを受ける制度があってもいい」と提言した。
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連載は大泉晋之助、滝口亜希が担当しました。
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